Kyon {Silence Of Monochrome}

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2012/06/07

映画「フード・インク」~安田節子氏・枝元なほみ氏の対談を聞いて

TPP=環太平洋戦略的経済連携協定。
今月にでも野田首相は参加表明をするのでは…という懸念が広がっている。
そもそも、TPPとは何なのか。
まずTPPを推し進めてくる米国(多国籍企業)を知ることから始めたらよいのではないだろうか、
そして米国を知り日本の未来を推測するためのよい参考になると思い、
この映画『フード・インク』を観ることにした。

冒頭から整然と商品の並ぶ、清潔感のあるスーパーが映る。
山積みにされた大量のトマト。
そして「これは、トマトという『概念』を食べているに過ぎない」という
不可思議な言葉が続く・・・

大量消費時代(これも仕組まれたシステムと思う)の効率至上主義にのっとった食の「工場化」。
畜産の飼育場や養鶏場も例外ではない。
今、鶏は従来より半分の日数で育つように改良(操作?)され、49日で育つ。
人は胸肉の部分を好むという。だから、従来よりも胸肉が大きく育つようになっている。
それを「化学技術の成果だ」と手放しに喜んでよいものか?
不自然ではないだろうか?
鶏自身はその急激な成長についていけず、成長した鶏は立とうとして何度もよろけ、
中には骨折するものもあり、悲しいうめき声を上げながら生きたえ、処分される。
鳥たちは太陽の光の届かない暗がりで一生を終える。
大企業に雇われ、借金まで背負った養鶏家は、
圧力に屈して口を閉ざし、多くを語らず、内部の撮影も許されない。
鳥達が寝静まった頃に回収しにくる者達は、これも下層にいる者達ばかり…
それは畜産現場でも同じで、汚れ役はマイノリティや低所得者にまわされる。
ある現場での話では、従業員は「豚」と同様に扱われるという。
「豚はすぐに殺されるから、快適さを考慮する必要はない」
そして鶏も豚も牛も、末端にいる従業員も、虐待されるという…

「豚を命ある者として扱わないということは、私達自身にもふりかかってくることだ」と指摘したのは、
この映画の後、お話をお聞かせ頂いた料理研究家・枝元なほみ氏の言葉だ。
そして思い出すマハトマ・ガンジーの言葉・・・
「国の偉大さ、道徳的発展は、その国における動物の扱い方で判る」


上記場面での下層級の人々の扱いに対して、
ふと原発労働者や、映画「イエローケーキ」でみたウラン鉱山の人々を思い出した。
被曝を強いられる過酷な現場の作業員達・・・
その扱われ方や構図は、畜産現場の人々のそれと酷似しているようにも思えた。


畜産工場の場面では出血性大腸菌0-157についても言及している。
もともと牛は草食であるのを、安価で太らせるため飼料にコーンを与えた結果、
牛の胃袋の大腸菌が変異したのだという。
この牛に五日間牧草を与えれば、大腸菌はほぼ死滅するが、
しかしそれを大企業はやろうとしないという。
そして現在の食の「工場化」は、この菌をばらまくには都合のよいシステムとなってしまっている。

ここで対照的な畜産農家が出てくる。
開放型の牧場を営んでいる。とても清潔感あふれる生き生きとした現場だ。
動物達も命あるものとして大切に扱われている。
しかし政府はこれを「不衛生」な現場というのだという。「開放型だから」不衛生だと…
映画を観る限り、私には工場の方がはるかに不衛生に見えたのだが。

牛達は悠々と歩きながら太陽の下、青々と茂った牧草を食べる。
牛達の糞は、そのまま牧草の肥料となる。
自然な循環がそこで生まれる。持続的なシステムだ。
が、先の畜産工場では、糞尿も垂れ流しである。目もそむけるような画面がそこに広がった。
その糞が0-157に汚染されていれば、汚染が拡大してしまう。
たった一匹の汚染でも、あっという間に広がってしまう。
この状態が衛生的とはとても思えない。
そしてこうした牛の肉が、外食や、私達の食卓にまぎれこむ可能性も十分にありうる…
実際の痛ましい死亡事故も取り上げられていた。
昨今の日本ではユッケ死亡事件が、まだ耳に新しい。


一つの企業が、種からスーパーまで一挙に支配している。
代表的なのはモンサントだ。
TPPでは、遺伝子組み換え食品の表示義務の撤廃が「貿易障壁」とされ、
撤廃される恐れがある。
そしてそれを機に、更なる流入が懸念されている。
米国では既に、遺伝子組換えのコメが開発済みだという。
例えば10キロ1000円のカリフォルニア米が、味もさほど国産の物と変わりなく、
しかも「放射能がない」とうたわれた時、消費者は飛びつくだろう・と
遺伝子組み換え食品、食糧安全問題の専門家・安田節子氏は言う。
「その時が一番、恐ろしいんです」

そこで、最近、近所のスーパーに安価な中国産米が売られていたことを思い出す。
そして、とある新聞の記事でも「輸入米が食べたい人が25%」とがあったり、
輸入米に食指動かす外食産業」、
輸入米:じわり人気…消費者の抵抗感和らぐ」といった記事もあったと記憶している。
最近では「パンの購入額が、コメを抜いた」という記事もあった。
穿った見方ではあるが、TPPの伏線にも見えてくる。
TPPでは関税撤廃で、コメ農家は壊滅的、といわれている・・・



ある家族の場面。低所得者だが不必要に太っている感じがする。
常食は安価で買えるハンバーガー。野菜を買うよりも安くすむ。
しかし夫は糖尿病で、その子供も同じ病気だという。
薬代がまた高価だ。だから生活を切り詰めるために、また安価で高カロリーな食に頼る。
疑問を抱きつつも、そういった負のスパイラルが延々と続く…
肥満はむしろ、低所得者に多いと聞いたことがある。
その原因と流れが改めて、解った気がする。
米国では糖尿病に罹患する人が増えており、
特にマイノリティにおいて、2人に1人が糖尿病だという。
子供も増加傾向だという。
あの「シッコ」でみた自由診療・高額医療社会で、どう病と闘うのだろうか?
低賃金での労働や長時間労働、それが低価格を求め、安くて簡単な食材に頼ることとなり、
それらの不健康な食材のために病に倒れ、今度は薬漬けとなる…
その節々で、大企業にうまく搾取されている。
そんな容赦ない「金儲けシステム」が、負のスパイラルとなって私達にのしかかっているように思えてならない。

ハンバーガーの肉に付着していた0-157で幼い子供を失った母親は言う。
「私達よりも、大企業の方が守られていると感じます」



命の素となる食べ物…、命そのものである食べ物を、
あたかも「工業製品」のようにして扱うその姿に、私は胸を悪くした。
病気を防ぐために投与する大量の抗生物質、
成長ホルモン、赤みを増すための薬剤、
アンモニアで洗浄し「清潔」だとされる肉・・・
特定の農薬に耐性を持つよう遺伝子操作された穀物・・・
そして、次はクローン動物の肉・・・?
いったい、私達は何を食べさせられてきたのだろうか?
これから、何を食べさせられていくのか・・・
そして、1つの企業が種から食卓までを支配する世界。
その危うさ。異様さを、私は今まで知らなかった。疑問にも思わなかった。
それは、今のこの国の原発の真の姿、電力会社の姿とも重なる。

「食がビジネスに汚されてしまった。電気も同じ。同じものが根っこにある。
儲かる仕組みでいたいという…」と、対談で枝元氏は言っていた。


私もかつてはファーストフードをよく利用していた。
カップ麺やできあいの総菜も多く利用していた。
早くて安くて便利な食品。お腹が空けばすぐに満たしてくれるモノ。
夫婦共働きで忙しくても、手ごろに素早く食べれる、優れモノ。
しかし、それらから私はもう長いこと、距離をおいている。
それは、「命=食べ物」だと改めて思いなおし、
その一口が、明日の自分、明日の血の一滴を作っていくのだ・と感じた時からだった。

対談で安田節子氏は
「血の一滴を作るのは、口から食べる、その食べ物です。
そして、どの時期にどんな食べ物をたべればよいかということもあるのです。
食べ物で病も癒せるのです」と言っていた。
先祖代々、受け継がれてきた、日本人の身体に刻まれている「食べ方」。
四季折々の食べ物・食べ方を継承していくことの大切さを語っておられた。
「力のある食べ物が必要。食の力を信じ、大事にしましょう」枝元氏も強く訴えていた。

即席食品やGMO食品、添加物まみれの食材、人工的に操作された食材に、
そういった癒す力や、食本来の持つパワーがあるだろうか?
一時の空腹を満たし、一時の快楽は得られるかもしれない。
しかしそれだけのことに感じる。
私達は、食材の下ごしらえもできない程に、忙しいのだろうか?
ドリンク剤やジェル状の食品で栄養補給して、
さらに走り続けねばならない程、忙しい時間を生きているのだろうか?
もしもだとしたら、上記の食品はそういったシステムから必然的に生まれたといえるのかもしれない。
そして食のあり方を変えるためには、社会そのもののシステムを見据え変化させていくことも不可欠だと強く感じる。

そこで、映画の最後に印象的な文章が綴られる。

「私達には システムを変えるチャンスが 一日に三回ある」

そして、消費者は自分達の真の影響力を知らない・という。
何を選び、何を食べるのか。
1日三回の食卓に、その手の中の「選択」に、私達の未来がかかっているともいえる。
そう思うと、ちょっと希望も湧いてくる。
まだまだ小さくてもやれそうなことがあるではないか。
まずスーパーに行ったら、食材をひっくり返し、成分表示を確かめることからでも、
はじめたらどうだろうか。

私達は無力ではない。
安全な食品を求める権利がある。
そして、その選択が、やがては世界をかえることにもなるかもしれない。
内容は非常にシビアで、辛い場面も多くあったが、
そういう希望を抱ける作品だった。

そしてTPPは食の安全を脅かし、私達の選択肢を奪う危険をはらんでいる。

無料で頂いたこの可愛らしいリーフレットによれば、
「食の安全基準さえ「貿易障壁」とみなし、撤廃を強いる…」とある。

現在、TPPについて(またはGMOや食品添加物等、食の安全についても)
マスコミでは多くを語られず、これからも真の報道は望めないと思う。
だから疑問を持ったことに対して素直に関心を持ち、自分で情報を得ていかねばならない。
自分の無知を知り、知ることから始めることは、今の時代、とても大切で有意義だ。


TPPのことを知る上で、解りやすいHP。
サルでもわかるTPP

「フード・インク」公式サイト