Kyon {Silence Of Monochrome}

Kyon {Silence Of Monochrome}
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2010/11/19

枯れ果てるまで生きてほしい

先日の仕事の帰り、ふらっと本屋に立ち寄りました。
何気なく写真集等のコーナーに近寄り、ふと下段に目をやると、
「チロ愛死」という写真集が。

「愛しのチロ」は写真家 荒木経雄氏の言わずと知れた有名な本ですが、
そのチロが?

中を見て、閃光に射抜かれたような衝撃を受けました。
今にも天国へ召されようとしている、痩せ細ったチロの姿に衝撃を受けた、というのもありますが、
それよりも何よりも私の胸に日々纏わりついて離れない、
愛猫の死、そのものがそこにありました。

愛されて愛されつくして召される猫の姿
ガリガリに痩せて今にもその小さな鼻息が聞こえなくなりそうなのに
瞳はずっと月のように輝いていて
その神々しい月光の中で
いつまでも照らされていたいと思う


胸が詰まって思わず本屋の中で涙しそうになり、目を何度もパチクリする自分。
それでも鼻水が出てしょうがないので、
鼻をすすりながら、呆然とその写真集を手にしていました。

可愛らしく愛くるしい猫を被写体にしたハートフルな写真集は沢山あります。
でも、こんなに胸に迫り私を一瞬にして何処かに連れ去る写真集は今までありませんでした。
何よりも、自分の愛猫達の姿をそこに同一視してしまう。
いつか来る死を頭では理解しつつも、感情が許さない自分への、
運命から突き付けられた真実の姿にも感じました。

私も、私自身の身そのものにもいつか訪れる、死。
たかが猫といわれても、私にとっては家族同然の存在です。
その死を受け入れる自信が今でもありません。
しかし、その写真集を見て、私も心の準備を、今からしておかなければ、
その時に、自分の心身に大洪水が起き、崩壊するのが目に見えてきます。

私は写真集を購入しようか迷いました。
が、その時は決断できませんでした。
と同時に、私は、いざ愛猫達の「死」に直面する時に、
やはり自分は耐えられないかもしれないと、
再認せざるをえなかったのでした。

写真家アラーキーの写真集なので、所々に官能的なページもありますが、
その少女や熟女のヌードと、
痛々しく切ないチロの姿が、
交互に網膜に飛び込む度自分の核心部が揺さぶられ、
そのエロスとタナトスのコントラストが眩しく、繊細で、どうにも悲しすぎて、
愛猫の「死」をより鮮烈に想像させるのでした。

その日の帰り道、写真集を手にできなかった私は、
脳裏に焼きついたそのコントラストを心の中でずっと咀嚼しながら、
涙を流し、鼻をすすってトボトボと歩き、
家にかえって、クロチビのアズキと、美猫のワサビの背中を撫でながら、
やっぱり私はその時、耐えられないかもしれない、
と再再認してしまうのでした。
しかし、その命が燃え尽きて、枯れ果てるまで生きてほしい。
そしてその瞬間まで、ずっとずっと一緒にいさせてほしい、と心からそう思いました。

大切なものは、それらを多く持っている程、
失う時の悲しみも多く、深いものです。
家族も、友人も、そして愛猫達も、
いずれはお別れする日が必ずやってくる。
その時、辛くて耐えられない日々もやってくるだろうが、
それも含めて、私の生きている「人生」そのものの世界なのだと、
あらためて考えさせられた日でした。