10月29日、ツマグロヒョウモンのハトちゃんが旅立った。
ハトちゃん(メス)は羽化不全だった。
8月10日に羽化したのでハトちゃん。
人一倍(ツマ一倍?)小さくて、退化した前脚を除けば脚が二本しかなく、さらに後ろの一本は半分で切れていた。
それでもハトちゃんは日本の脚を器用に操り、ケースの蓋につかまり休んでいた。
いつも元気なこで、時々指に乗せると、その半分しかない後ろ脚がこちょこちょと指をくすぐり、小さなハトちゃんの存在を一層大きく感じさせるのだった。
毎年のようにツマグロヒョウモンを育てていると、幼虫のまま、あるいは蛹のまま死んでしまうこが出てくる。最盛期の初夏よりも、そこからちょっと進んだ季節に多いように感じる。
卵の主である親の個体も真夏で疲れてくるのだろうか。羽化不全も時々ある。
ハトちゃんもその一頭だった。
しかし、私たちは慌てない。ツマグロヒョウモンはとてもお世話しやすい蝶だからだ。
前脚に、ハチミツ水をたっぷり染み込ませたティッシュでちょんと触れると、お腹が空いていれば口吻をひゅるひゅると出してくる。それがとてもかわいい。(アゲハ類はこうはいかない…)
ごはんがいらない時はそれに眼もくれずにパタパタそこらを遊びまわるか、口吻がしまったままなのでわかりやすい。
ハトちゃんは80日生きた。
この薄暗いコロナ渦のなかで、彼女の存在に癒され、励まされた。
小さくても、脚がたりなくても、日々元気に生きている姿。
別れはいつも辛いけど、ずっとこころの中に生き続ける。
そして、羽化不全のこが、もう一頭。
ツマグロヒョウモン、オスのツマオさん。
羽化の時に触覚と口吻が引っ掛かってしまい、殻からうまく離れられなかった。
翅がよじれて、口吻も収納できず、先端が割れてすこし曲がってしまっているが、蜜は吸えるようだ。
暖かい日射しをあびると、元気に動き出す。
翅をフルフルと振動させている姿をみて、空を飛んでいる気分なのではないかと思ってしまう。
羽化してまだ18日、この美しいオレンジ色の蝶と、しばらくは一緒にいられるだろう。