私は昨日羽化した越冬アゲハとキアゲハを旅立たせることにした。
ネットに入れたまま、外に出そうとするが、バタバタとしてしまってなかなか出ない。
そのうち、キアゲハがひょいっと顔を出し、矢のように飛び立っていった。
次の瞬間にはもう空高く舞っていた。7カ月眠っていたとは思えぬほどに、力強い飛翔だった。
{ キーちゃんの分まで生きるんだよ }
54日を共にしたキーちゃん。 |
一方、アゲハはまだネットの中にいた。そっと指を差し出すと乗っかってきたので、
そのまま近くのラベンダーの花に止まらせた。
翅をふわっと広げたまま、動かない。小さな顔の頭の産毛が初々しく妙にかわいらしかった。
近くにいた母を呼び寄せ、二人でしばらく見守った。
越冬した蛹から昨日羽化したことを伝えると「小さい生き物はたくましいね」と言った。
そのうち身体が温まったのか、ふわりふわりと翅を動かし、ビオラの花の上に止まった。
お腹が空いていたのだろう。口吻を出し、小さなビオラの花の蜜を吸った。
だいぶ長い時間、一心不乱に吸っていた。そして満足したのか口吻をくるっとまとめると、またふわっと飛んでみせた。
アゲハは飛んでは戻り、またくるっと回ってみてはまた戻り、なにかなごりおしいのか、最後の挨拶をしてくれているのか、何度か行きつ戻りつして、そのうち遠くへ消えていった。
最後は私のそばまでやってきて、くるりと回ってくれたのだった。
こういうとき、旅立ちを喜ぶべきなのに、たまらなく切なくなる。
別れは、いつもいつも、胸が苦しくなる。
「元気でね 頑張るんだよ」 とアゲハに声をかけ、
{ どうか無事で どうか蝶の幸せを全うしてね
そして いつでも戻っておいで }
心の中で伝えた。
今は桜の花が満開だ。そして今後も暖かい日が続くという。
アゲハたちも桜の花の香りを嗅ぎ、蜜を吸うことができていたら嬉しい。
これで昨年から続いていたアゲハとキアゲハの飼育日記はいったん終わる。
今年はいつ、戻ってきてくれるだろうか。彼らの子孫たちが。
準備万端にして待っていよう。