悲しみがこんなに深いものかと、
身をもって痛感しました。
時間が癒してくれるのをただひたすら待って、
日々のやるべき事に、今は身を委ねるしかありません。
それでも、あずきの小さな幻影はいつも私の視野の片隅に静かにたたずみ、
「あ~」と鳴いていた可愛い声が今も聞こえてくるような気がします。
悲しみと愛情と、一緒に過ごした楽しかった日々の思いが、
混沌として頭の中で渦を巻いていたものが、
時間の流れとともに、悲しみだけが蒸留され、
静かに頭の中から蒸発して行き、
愛情とその日々だけが濾過されて残っていくような気がします。
けれど、時にそれが反対のような感じもしてしまいます。
深く冷たく突き刺すような寂しさと悲しみだけが、
ずっと留まって離れないこともあるのです。
「死」というものは何なのか、
あずきは小さな体で私達に教えてくれました。
共に生きるとはどういうことなのか、
命に対して責任を持つとはどういうことなのか、
愛情を惜しみなく注ぐとはどういうことなのか、
一心不乱に守りたいと思い気持ちはどういうものなのか、
悲しみの深い闇に落ちて行くとはどういうことなのか
また、そこから這い上がる過程とはどういうものなのか
それでも、あずきは私達の元から、
本当に早すぎるぐらいに
流れ星のように一瞬で去って行ってしまったと、
その寂しさが癒えません。
あずきと出会った坂道を通る時、
街頭に照らされてヨチヨチと歩み寄ってきたあずきの幻影を、
私は心の中で見つめながら、
ただ時間の癒す力を信じるしかないのです。