この作品は以前聞いたラジオで紹介されていて、
見るのにはいささか心の準備が必要な作品だと感じていた。
痛烈に悲しい作品だと、冒頭から感じて、苦しかった。
イルカの姿がそれは神々しく、和やかで美しくあるほどに、
悲しく切なかった・・・
これは、イルカの知能の高さと信頼感、「心」そのものを、
私利私欲のために利用しようとする、人間のエゴのおぞましさを描いた作品。
前半の、博士とイルカの、愛に満ちた交流が心を揺さぶるだけに、
後半は胸が締め付けされるように、辛かった。
研究所で産まれたアルファというイルカが、その知能の高さゆえに、
人の言葉を理解し、話し始めた時から、悲劇は始まっていた。
自分の名前を呼ばれて、
けなげに 「ファー!」 と返事をする姿・・
「ファー パパ 大好き」
と言って、博士の足に愛らしくすり寄るアルファの姿・・
恋人のビ―と別れ別れにされ、猛烈に怒りながら、
「ビー 今すぐ かえして」 と、懇願する姿・・
どれも胸に迫る。
人を信頼し、人の言葉を信じるが故に、
暗殺利用目的で誘拐され 、爆弾を装着される姿・・
人はこの時、恋人のビーをも利用する。
恋しい、愛しい、守りたい・・という心そのものを利用しようとする。
そして、最後は人に追われる身となり、
安全の為に、大好きな博士と、永遠の別れをしなければならなくなった。
「ファがいるから パパはいじめられる」と聞かされ、
寂しそうな表情をうかべて、
「 ファー 行く 」と・・
そして、いつまでも、博士を追う姿が、
福島原発事故により、20キロ圏内でやむを得ず置いて行かれた、
かつての犬や猫や牛、馬、鶏などの悲しい姿と重なる・・
イルカだけではなく、私は全ての動物達には「心」があると思っている。
そして、それを信じる人にとっては、
この作品はあまりにも悲しい。
きっと、原発事故により亡くなっていった多くの動物達も、
その死の直前まで、もしかしたらそれ以後も、ずっと、
飼い主さんの事を信じて待っていたのかもしれない。
この映画は映像や音楽が素晴らしいが、
ただそのイルカの魅力=賢さと愛らしさを表現しただけではない。
その無垢で純粋な魅力が、
生物の頂点に立ったかのような奢りと傲慢さで、
権力の為には、何でも利用しようとする人間のおぞましさをより恐ろしく、
増幅させる。
嘘ばかり言う人間に対して、ファーは言う。
「人間 無い事ばかり 言う」
それでも、人を信用し、愛そうとするファーやビ―の姿を、
むしろ、人間が真似し、学ぶべきではないかと思う。
昨今、とある水族館で、イルカが稽古中にジャンプの着地を誤って、
胸を強打し、亡くなったというニュースがあった。
悲しい事故だった・・
狭いプールの中で、人に芸を見せるためだけに産まれてきたわけではないだろうに・・
私はこのような事故が二度と起こらない事を、本当に心から願う。
そして私達は、自分達の私利私欲や娯楽、興味のために、
不必要な命を犠牲にはしていないだろうか・・と
いつも心の中で問うていく必要があると思う。