Kyon {Silence Of Monochrome}

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2017/11/17

ツマグロヒョウモンの日記 ~蛹で保護したツマオさん(羽化不全)~

11月15日
ずっとツマグロヒョウモンの生育の姿、幼虫から成虫までを見ていて、自然はつくづく厳しいものだと感じている。

ちょっと足を延ばした先にある川沿いにはスミレが長い列を作り「スミレライン」のようになっていて、そこでツマグロヒョウモンたちが命をリレーしている。
初秋に入り蛹になった仲間たちは次々と羽化し始めているが、そのなかで、
(翅が曲がっているなど)羽化不全のため動けなくてのままアリにたかられているものや、何かの事故で死亡したもの、蛹から出れないものなど、大空をはばたけない仲間も少なくない。

現在見られる蛹はみな上手に、頑丈に釣り下がっている。そのなかで、ぽつんと落下してしまっていた蛹があった。
蝶初心者としてはなにができるのか不安があり、自然にまかせようと思いつつ、その蛹のことがずっと頭から離れなかった。
そして、このところの他の蛹の羽化不全の状態を見ていると、この転がった状態ではおそらく翅が変形しているだろうし、出てくることもままならないのでは?と思うようになった。
生きながら、死していく・・・
それも運命なのかもしれないが・・・

蝶の羽化を間近に見て、何とかしてやりたいという思いが、さらに強くなった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

その夜、思い切って、その転がっていたツマグロヒョウモンの蛹を保護した。
(家人に一部始終を説明したところ、では拾ってくれば?との一言・・・で決めた)

いつ蛹になったかわからないが、うちで羽化したこたちと同じ時期ではないかと思った。

触るとけっこう元気にうねうね動く。いやいやしているように見える。
ごめんごめん・といいながら紙で救い上げ小さなタッパへ。
なるべく衝撃を与えぬよう家に帰り、すぐに作業に取り掛かった。
蛹の先に少量のボンドをつけ細く切ったガーゼに接着、固定したら割りばしに結び付けた。また補強的に糸をくくり軽くむすんだ。
その間、蛹はずっとくねくね動いていた。吊り下げた状態でも相変わらず動いている。
体力を消耗させてしまったかもしれない・・・。
心配になったが、しばらくすると静かになった。


羽化後の蛹

おそらくこのこは翅が変形して生まれてくるだろうと覚悟した。
羽化不全の蝶のお世話の仕方をたくさん調べた。
ネットではツマグロヒョウモンの羽化不全のこを5カ月飼育したという方のブログがあり、驚愕とともに大変勇気づけられた。
きっと愛情たっぷりに、大切に大切にされたのだろう。

自然ではまちがいなく淘汰されてしまう命だが、出会ったのも運命。
今は必要な情報も得られる。できるだけ頑張ってみようと思う。

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11月16日

夜の12時。部屋の明かりをつけた瞬間、羽化がはじまっているのが見えた!
朝日とまちがえてしまったかもしれない。
夜の羽化は聞いたことがなかったが、それでも家人と静かに見守ることができた。

必死で蛹から抜け出そうとしている。その大変そうな姿に思わず「がんばれ~がんばれ~」と言ってしまった。
やはり、片方の翅が巻いてしまっている…。その変形翅を蛹から一生懸命引き出そうとしているが、なかなか引っ張り出せない様子なので、ちょっと手をかして蛹をおさえていたら、ようやく引っ張り出せることができた。
これは、やはり、転がったままでは脱出すらできなかっただろう・・・。

産まれてきたかったんだね。
頑張ったね。

ああよかったという安堵とともに、やはりこの翅では飛べないなぁ…と切ないような複雑な気持ちになった。





これから、このこと、とことん付き合うことになる。
できることをできるだけしてやろう。
大空は飛べないけれど、少しでも快適に過ごしてもらおう。


少し落ち着いたところで早速、綿棒にスポーツドリンクを3倍に薄めたものを綿棒にしみこませ、口に近づけた。
すると綿棒を抱える形で、ストロー(口吻)をひゅるひゅると出してきた。
{あ、おなかがすいているんだな、生きたいという証だな}と思った。
その時はとくに吸うこともなく、ちょっと確認しただけのようだった。

途中、綿棒から指につたって出てきてしまったが、ぽとっと落ちてしまい、歩くのもぎこちない。うっかりするとひっくり返ってしまう・・・。

まだ羽化したてだし、休息が必要だろうと、いつでも吸蜜できるようティッシュにスポーツドリンクをしみこませたものをケースに置き、部屋の明かりを消し、黒い布をかぶせておいた。


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11月17日
晴天だがちょっと肌寒い。

男の子なので、名前はツマオさんとつけた。
夜はずっと蓋の上で休んでいたようだ。赤い排せつ物がしてあった。
朝7時にごはん(←スポーツドリンク)を綿棒であたえてみたがとくに吸う様子はない。

11時半ころ、日光浴がてら、再びごはんの時間とした。
ごはん(今回はスポーツドリンクを2倍に薄めたもの)は、ティッシュにしみこませてペットボトルの蓋に入れた。
近づけるととさっそくくるっと巻いたストローを延ばし吸蜜しはじめた。




その愛らしい姿に見惚れるとともに、ほっとした。。

その後、そのごはんの上で休んでいたかと思うと、おしっこをしてしまった。初めて見たが薄い赤色だ。
{よかった}ふたたびほっとした。なんといっても「食と排泄」は生きる基本だから・・・。

ツマオさんの片方は正常な形です。ぱっと見は羽化不全だとわかりません。


その後、30分くらい日光浴をした。ケースごとほんのり日の当たるところに置いた。下では猫二匹が同じく日向ぼっこ。。


{あったかいにゃ~}と、
頭上に蝶がいることにまったく気づいていません・・・。


日を浴びて、ゆーっくり非対称の翅をハタハタゆらしている姿が、なんともかわいらしい。

その後は自分の部屋に移動させ、部屋を暗くし(室温は18℃)また黒い布をかぶせておいた。


少しでも外の雰囲気をと、彼らがよく吸蜜していたコスモスの花をケースに入れるときに様子をうかがうと、ツマオさんは蓋の上に器用にくっつき、休んでいるようだった。

明日、また朝一でごはんにしよう。


日光浴中のツマオさん。ほんのりとした日差しのなか、
翅をゆっくり、動かしていました。




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ツマオさんのその後・・・
羽化不全で産まれたツマオさんは、産まれてから2日後、動かなくなっていました・・・

とても残念で意気消沈しました。


蛹が落下したこはその時点で弱っている可能性が高いようで、
ツマオさんは落下してからだいぶたっていたから、その時点で弱っており、
くるりと曲がった翅を引き出すのにも、だいぶ体力を使ってしまったのかもしれません。

産まれた次の日、ほんのり日の光をあびて翅をゆっくり開閉していたツマオさん、
用意した希釈ポカリを細いストローでこんこんと飲んでいたツマオさんの姿が忘れられません。



生涯、忘れられない出会い、忘れられぬ蝶となるでしょう。



生まれ故郷に近い場所に、キバナコスモスとともにうめてあげました。
星のかなたで、オレンジ色の美しい翅を広げて羽ばたいていることだろうと、
そう、願っています。