ツマグロヒョウモンのオス、ツマオさんが今年の1月30日に旅立った。
110日間一緒に過ごした。
旅立つ2日くらい前からハチミツ水を与えても反応が乏しく、けいれんしているような姿も見せていた。
目はだいぶ前から赤黒くなってしまっており、見えてはいなかったと思う。ただ嗅覚は大丈夫ではないかと思い、時折ビオラの花をケースにいれてあげた。
ツマオさんは羽化の時、アクシデントがあった。
殻のなかの液体が体の一部にくっついてしまっており、自力で抜け出すことができないでいた。こういうことはままある。
偶然、家人がそれを発見し、様子がおかしいと教えてくれた。
身体は抜けかかっていて、うんしょうんしょと頑張っているが、なにかひっかかってしまっているようだ。そんな状態が少し続いてしまっていたのか、翅はのびきらずに波打ってしまっていた。
家人が器用に殻と体を分離させてくれた。(前にもこういうことがあり、模型用のピンセットで器用に剥がしてくれた)
ひっかかっていたのは口吻と触覚だったようで、片方の触覚は殻にひっついたままとれてしまい、心配だったのは口吻だった。
口吻は通常、翅を広げ乾かしているうちに二本のものが一本にまとめられ、くるりと口元に収まっていく。
ツマオさんの口吻は先端が割れてしまっていた。二股のようになってしまったのだ。
これでちゃんと食事がとれるのか不安あったが、それは彼が7日生き続けた段階で解消された。
一週間以上生きるというのは、与えた蜜を吸えたということだ。安堵した。
ただ、つかまる力が弱く、見た目もあいまって、一カ月くらい一緒にいられれば…という気持ちもあった。
しかしこのツマオさんはそんな心配もどこ吹く風、驚異的な生命力で110日生き抜いてくれた。
一日1回のハチミツ水をおいしそうに吸っていた。それがまた個性的で、口吻をハチミツ水をふくませたティッシュに器用に押し付けては、象のように高く上げ、また押し付け、それを繰り返していた。
なんともかわいらしい姿だった。
飛ぶことのできないウェーブのかかった翅もそれはそれで美しく、ツンと上を向いたパルピはずっとついたままだった。(ツマグロヒョウモンのパルピは良く取れることがある)
なにより、新型の感染症で不穏な世界の中、不安と憤りとが渦巻く中で、彼の存在は一筋の光のようだった。
{ 彼を大事にできただろうか 本当に大切にできたのだろうか }
自問自答の日々である。
私にも暗い空気がまとわりつき、特に秋から冬本番にかけて正直余裕があったとは思えない。
ただツマオさんがいなくなって、春が少しづつ顔を見せはじめ、種から育てたビオラが次々と開花しはじめていくのを見て、時々寂しさと切ない思いがこころのなかを駆ける。
小さな体で生きた110日という期間は、やはり重い。
とても大きい。