曇っており、とにかく寒い。部屋の温度も15℃前後。
ツマジロウさんは15日目、ツマサブロウさんとよっちゃんは産まれて14日目となった。
朝、ツマたちにごはんをあげた。
寒いので動きは鈍い。寝ぼけ眼のなか、3頭ははちみつ水を飲んでくれた。
ツマジロウさんは側面に貼りついたまま、動かすのもかわいそうなので、そのまま飲んでもらった。
ツマサブロウさんは翅がちょっとおかしくなってしまっていたが、綿棒を近づけるとすぐに乗り移り、翅をゆらゆら動かしてご機嫌そうに飲んでいた。
よっちゃんもゆっくり丁寧に飲んでいた。あまりにながいので、よっちゃんがつかまっている綿棒をそっと小皿に移し、そのまま飲んでもらった。だいぶ長い時間吸っていたようだ。満足すると、口吻をまとめ、場所を移動する。
今日は日が照らないため、このまま、お風呂場で休んでもらうこととした。
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今日は、とてもショックなことがあった。
午前中、出かけるために久々に川沿いを歩くと、なんとスミレが一本も無いのだ。
道路の補正工事があるとは聞いていて、嫌な予感がしていたが、補正するのは車が走る方で、歩道側にあるスミレは邪魔ではないだろうと思っており、
まさか!という感じだった。
思わず「どういうこと?」と声を出してしまった。
歩いても歩いてもスミレがない。スミレどころか、すべての草が抜かれている・・・。
落ち葉もない。なんてことだ。
まだわずかに茂っているスミレをたよりに、落ち葉の中で越冬幼虫が眠っているはずだった。
その子たちもきっと一掃されてしまった・・・。
悲しくて、泣きたくなった。
しかしこらえながら、川沿いを歩き、まだ幼虫がいないか、探した。
けれども姿はなかった。
{ニンゲンは残酷だ。
ニンゲンなんてそこらへんにうじゃうじゃいるのに、町で見る蝶たちは、
いつも、ほんの数頭ではないか。
それなのに、ニンゲンの都合で、かれらのわずかな食草まで奪って、
なんて身勝手なんだ。なんて残酷なんだ。
もうこの町で、あの美しいオレンジ色の蝶が見れないかもしれない・・・}
自然にまかせようと、川沿いで見かけた小さな幼虫たちはそのままにしていた。
だけど、ヒトの深くかかわる場所で「自然に任せる」という言葉は無意味だと思った。
おそらく、大体のヒトは彼らを知ることもなく、無関心で、守ろうとなんて考えもつかないだろう。
今回だって、仕事に従事している人々はただ指示された事(=草取り)を淡々とこなしているだけなのだから、悪気とかそういうものもないだろう。
だけどツマグロヒョウモンは、人知れずこの場所で、確かに命をつなぎ生きてきた。
スミレがたくさん茂る、この道で・・・。
そして、来年の春にはまた大空を颯爽と羽ばたくツマグロヒョウモンの姿が、
次世代を残すはずあろう命があったはずだ。
それが、無残にゴミとして捨てられてしまった・・・。
ああ、あの時、見かけた幼虫たちを、躊躇なく、保護できていたら・・・。
「自然に任せる」なんて言い訳せずに・・・。
私は心底、落ち込み、なんだかことさら嫌になってきた。
それでも今日は大変なヒト混みのなかに行かねばならない。
悲しみと後悔と怒りと、波のように押し寄せる感情を抱きながら、目的地へ向かった。
混とんとしていた。
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もしかしたら越冬幼虫が残っているかもしれないと、一筋の希望を抱きながら。
そのこは、なにもない壁面にくっついていた。
1.5cmくらいの小さな幼虫。
{よかった・・・!}
私はそのこをそっとティッシュにとって保護した。
越冬させるために、枯葉と、まだ別の場所に残っていたスミレの葉を少し摘んだ。
彼らは冬は仮死状態で過ごすらしい。そして暖かい日に出てきて、スミレを食べつなぐようだ。
スミレの数が激減したので、今日摘んだスミレの葉を一枚だけ、枯葉とともに入れておいた。
小さい幼虫は、死んだふりなのか眠っているのか、くるんと身を縮めていた。
その愛らしい姿に、涙が出そうになった。
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帰宅後、ツマたちにご飯をあげた。
ツマジロウさんはまだ同じ場所にひっついていて、はちみつ綿棒を近づけても、口吻を出したり引っ込めたり・・・。あまり乗り気でないのであきらめた。
ツマサブロウさんとよっちゃんは普通に飲んでくれた。
彼らに食事をあたえながら、君らの仲間がひどい目にあってしまった、ごめんよ・と声をかけた。
全ての命を救うことはできないし、現実的ではない。
でも何かできたことがあったかも・・・と考えている。
悲しい気持ちは、ずっと胸に鎮座している。
ニンゲンが右往左往する土地である限り、「自然に任せる」ことはあり得ないのだと痛感した。
そして、自分も含めニンゲンがそこに住んでいるということは、元の自然は切り崩され、コンクリートで埋められ、植物は理路整然と植えられ手入れされ、
誰かの住処を剥奪し、命を奪ったということではないか。
ニンゲンも自然の一部であるはずなのに、やることなすこと自然から逸脱してきてしまっているのではないかということは、
常日頃、感じているのである・・・。
ニンゲンこそ「不自然」そのものかもしれない。
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その時、ひときわ光る星が流れていくのが一瞬見えた。
もしかしたら、この星が、この小さな越冬幼虫と合わせてくれたのかもしれない。
そんな気がした。